スマートニュース執行役員 佐々木大輔が語る「仕事に活きる物語」とは “誰もが当たり前に情報発信できる時代に”

業界のトップを走る「プロフェッショナル」が薦める本とは?読書をもっと面白くする実名ソーシャルリーディングアプリReadHubが、独自インタビューをお届けするReadHubTIMES。現在スマートニュースでメディア事業開発部門を統括する佐々木大輔氏。佐々木氏が「仕事に活きる物語」を軸に、仕事と読書の切ってもきれない関係性と体験談を語る。

株式会社インフォバーン、株式会社ライブドアからLINE株式会社執行役員(エンターテイメント事業部担当)を経て、2017年11月スマートニュース株式会社に入社。メディア事業開発部門を統括。

 

ライブドア事件と本と私

2006年のライブドア事件後の激務のなかで、本に救われる経験をしました。

 

当時のライブドアの目標は通年での黒字化を達成すること。私は、ひとつの事業を任されたものの経営の経験がなく、何から手をつければよいかわからないような状況でした。そのため、毎晩夜遅くまで会社に残って仕事をし続けていました。

その時は若かったし、むしろその状況を楽しんでもいたんですが、仕事でハイになりすぎて、ついに日常の感覚に戻れなくなってしまいました。でもその自覚がない。もしかしたら、気づかないうちに自分勝手になってしまって、まわりに迷惑をかけていたかもしれません。

そうしたときに、ふと我に返るきっかけをくれたのが『影との戦い – ゲド戦記』です。10代の頃から繰り返し読んできた物語なのですが、そのなかに、主人公のハイタカが急いで遠くに逃れるためにハヤブサに変身する場面があります。

ところが、その魔法であまりにも長い間ハヤブサの姿で居続けてしまったために、元は人間であることを忘れてしまい、自分がかけた魔法を解くことができなくなってしまう、そういう話です。この主人公と当時の自分の姿がある時ふと重なりました。その時に「人間に戻らなくては」と思うことができたんです。

 

また、日常を取り戻すのに役立ったのがランニングです。当時、村上春樹さんの『走ることについて語るときに僕が語ること』を読んで、そこで語られている仕事に対する向き合い方に強く影響を受けて、走ることを習慣化しました。

嫌なことがあっても気持ちを切り替えられたり、体力がついたことで集中してものを考えられる時間が長くなったり、よいことばかりでした。現在でもランニングは続けているので、まさに人生の転機になった読書体験ですね。

 

誰もが情報の発信者になれる時代

インターネットによるもっとも大きな変化は、「誰もが情報の発信者になれるようになったこと」だと思います。いまではあまりにも当たり前のことになってしまったので、その衝撃の意味が次第に忘れかけられていますが、これは本当に大きな変化です。

私は長年、そうしたUGC(User Generated Contents)に関わってきたので、その衝撃の意味をよく反芻しますし、今でも新鮮な気持ちを持ち続けてさらなる深掘りをしています。

 

今から110年前に刊行された、『遠野物語』をご存知でしょうか。岩手県遠野市の人・佐々木喜善が語った地元の伝承を、柳田國男が119話の説話集として書き起こした文学作品です。日本の民俗学が生まれるきっかけともなった非常に有名な作品ですが、これもある種のUGCだと捉えて読むことができます。

井戸端や炉端での話が、優れて語り手によって広まり、それが優れた書き手によって文章となり、本になる。遠野物語』はそういうプロセスを経て今に残ったUGCだと考えると、現代の何気ないツイートひとつさえも貴重であると、そんな気もしてきます。そうしたものにも、いつか民俗学的な意味が出てくる可能性もあります。

 

現代の、誰もが情報の発信者になれるようになった状況を語るときに、いつも思い出す本があります。大塚英志さんの『物語消費論』です。

刊行が1989年なので、インターネットを前提とした内容ではもちろんないのですが、ビックリマンチョコレートなどを例にとって、消費者が物語を読むだけでなく、背景やキャラクターを自由に組み合わせて物語を再生産していく。そうした行為の一般化を描き、批評しています。

コミケ、ニコ動、YouTubeなどのクリエイターのためのプラットフォームが隆盛したあとの世界を生きている私たちには当たり前のことですが、その内容には今でもなお語るべきものが多く含まれています。

 

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